あなたにふさわしいBGMを

だいぶ前のことだが、家族で焼肉屋に行った時のこと。
高級感がウリで、名前を言えば、たいていの人が分かるような店である。
単独店舗ではなく、ビルの中のフロアだったが、中は細かな個室に区切られている。
室内は黒い壁に暗めの照明、入口は狭く、隣の席は見えないようになっている。
排煙装置もきちんと効いていて、上野の路地裏の店とは違っている。
肉の質も良かった。
だが、店内に流れているBGMがいただけなかった。
日本語のロックのようなポップスのような、EDM混じりのミクスチャのような音楽だったと思う。
その音楽がどうこうという話ではなくて、食事中に聴く音楽ではないなと思った。
しかも、はっきり歌詞が聞こえるぐらいに、ちょっと大きめのボリュームで流れていた。
店の高級感の演出とは、全くそぐわない。
では、逆にこういった店にふさわしいのは何だろうか。
昔はイージーリスニングなんていうジャンルがあったっけ。
今だったら、やはりアンビエント系かクラシックだろうか。
だが、食事がおいしく感じる音楽とは、あまり思えない。
K-Popでも流して、韓国の店の雰囲気にするのは、どうだろうか。
つまり、BGMとは聴きたい音楽を流すのではなく、店の雰囲気を作る一要素として考えた方が良いだろうと思う。
店を構成する要素としてBGMを考える、選択する、そういう考え方をした方が良いのだろう。

だが、こんなこともある。
とある、町の洋食屋に、食事に行った時のこと。
もう閉店近かったようで、こじんまりとした店内は店主のみ、客は私の家族だけであった。
落ち着いた照明と、こざっぱりとしたテーブルクロス、温かい雰囲気の店である。
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さなボリュームで、UKのThe Poguesが流れていた。
アイリッシュパンクのビートが効いてて、アコーディオンや特徴のあるボーカルが聴きとれる。
会計の際に、
「これ、ポーグスですよね?」
と聞いたら、
「今日は独りなんで、好きなのをかけました」
と、ちょっとびっくりした感じで、ややはにかみながら店主が答えた。
料理ももちろん美味しいのだが、The Poguesの流れている町の洋食屋というのは、なかなか良い。

もっとDX化が進むと、BGMは客側で選べるようになるのかもしれない。
店側はいくつかのパターンを用意していて、客はワイヤレスイヤフォンでチャンネルを選ぶ。
もちろん密閉式ではなく、骨伝導なり、外の音を取り入れながら音が聞こえるようなタイプだろう。
そんな予想をしながらも、AMラジオが延々と流れている深夜のラーメン屋のことを懐かしく思い出している。

Unsplashblocksが撮影した写真   

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