金縛りにあう

生まれて初めて、金縛りにあった。
それは夜中に不意に起きた。
家の回りを走る足音が聞こえてきた。
砂利の上を走るザザザッという足音。
音の方向から、どうやらぐるぐると走り回っている。
人のようなものなのか、動物のようなものなのか、大人なのか、子供なのか、ただ、足のある何かが走り回っている。
そのうち部屋の中に、「いる」感じがして近づいてくる。
足音も無く、すうっとそれは近寄ってくる。
足元の方からやってきて、胸の上に乗った。
飛び乗ったというより、すっと乗った感じがして、胸が圧迫される。
声が出ない。
怖いと言うわけではない。
ただ、身体が動かない。
声を出したら何とかなる気がして、声を出そうとする。
何を言いたい訳でもない。
声を出したい、ただそれだけ。
漸く出た声は呻き声のようなものだ。
でも、その自分の声で目が覚める。
冬の夜中、変わったことは何もない。
月明かりが窓から射し込んでいる。

これは怪異ではないだろう。
それは足音が聞こえてきた時から、そう思っていた。
疲れから来る錯覚のようなものだ。
聞いてもいないものが聞こえ、触ってもいないものの感触がする。
それは、脳が産み出した感覚に、物語が付加される。
ただの感覚では理解できないから、物語を付加して、理解可能なものに変換される。
ありきたりな物語の断片が、支離滅裂に繋がる。
今回の金縛りは、そんなものだろう。
だが、毎日続いたり、初めて訪れる土地で起きたらどうだろう?
そんな時は、誰に相談すれば良いんだろう?

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